コラム

HAMAMATSU WOMEN'S OPEN / COLUMN / 2018マッチレポート|準々決勝|澤柳vsバンデッキ

2018マッチレポート|準々決勝|澤柳vsバンデッキ

内田 暁

2018年大会マッチレポート①:準々決勝 澤柳璃子 7-5, 6-4 S・バンデッキ

 「ジワジワと……ジワジワとね~」
ロッカールームに引き上げてきた彼女が、作戦遂行をもくろむように不敵に笑う。
 第1セットで1-5とリードされながらも、追い上げ、ついに追い抜いた6-5の場面。しかしここで激しさを深めた雨脚のため、試合は一時中断される。せっかくの追い上げムードに、文字通りに水を差す無情の雨。
だが澤柳に、そのような落胆や苛立ちはまるでなかった。
「1-5になった時は、次のセットにつなげるためにも、とにかくボールをしっかり返していこうと思った」
すると相手は、コートを濡らす霧雨にも不満をつのらせ、徐々にミスが増えていく。そんな相手を傍目に「自分のやるべきこと」に集中した澤柳は、相手の弱点であるバックを攻めて着実にポイントを重ねていった。
そのような集中と精神状態は、雨の中断にも変えられることはない。ジワジワと……ジワジワと相手を追い詰めた澤柳が、再開後も流れを引き渡さずに第1セットを奪取。
第2セットも、いつか来るであろうチャンスを待ちつつ、粘り強くボールを追い続けた。時折、練習時のように「よいしょー!」の声が上がるのも、試合の緊張感に束縛されることなく、身体が動いている良きサイン。第5ゲームをブレークした澤柳が、笑みと前傾姿勢を保ったまま、フィニッシュラインまで駆け抜けた。

 今年の3月以降、コートを離れる時間も多かった澤柳は、今回のベスト4に「自分でもびっくり!」と目を丸くする。ただ同時に、これまで自身が渦中に居たテニスの世界を外側から見たことにより、得られた視座もあったという。この日の試合のように、追い詰められた時には、その客観的視点が役にたった。それはこれまで体験したことのない、新たな感覚なのだという。

 そのような新鮮な心理状況に居る今の澤柳が、次の対戦相手とネットを挟んだ時、どのような心の動きを覚えるのだろう?
準決勝の相手は、同期の鮎川真奈。15歳の頃から、鮎川の祖父母が経営するテニスクラブで、毎日のようにボールを打ち合った間柄である。

 「相手のことは良く分かっているし、相手も私を分かっているし……」
 今の両者が持てる全てをぶつけ合う、熱い試合になるのは間違いない。

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。