コラム

HAMAMATSU WOMEN'S OPEN / COLUMN / 2018マッチレポート|決勝|清水vs鮎川

2018マッチレポート|決勝|清水vs鮎川

内田 暁

2018年大会マッチレポート④:決勝戦 清水綾乃 6-3, 6-4 鮎川真奈

 かたや、ITF(国際テニス連盟主催大会)5大会優勝を誇る、今大会の第1シード。

 かたや、ITF優勝は一度で、$25,000のグレードでの決勝は今回が初のノーシード選手――。 

 数字上の状況としては、24歳の鮎川真奈が挑戦者で、20歳の清水綾乃は迎え撃つ立場である。だが、小学生時代に鮎川の祖父母が経営するテニスクラブに通い、4歳年長の鮎川を「凄く強いお姉さん」と仰ぎ見ていた清水には、第1シードという気負いはなかったという。
「前回の対戦でも負けているし、自分が向かっていく気持ちだった」それが、清水の胸中だった。

 対する鮎川には、決勝ゆえの緊張があったという。ただ自身がやるべきプレーに、迷いを抱くことはない。 「守って守りきれる相手ではない。自分の出来ることをやっていこう」 その「出来ること」とは「攻めること」。 スキの少ない相手を、自ら崩す策を鮎川は思い描いていてコートに立った。

 ただいざ試合が始まると、鮎川は清水のプレーに圧倒される。フォアとバックの両サイドから強烈なショットを繰り出す清水は、左右に打ち分けオープンコートを作っては、迷わずウイナーを打ち込んできた。瞬く間に2つのブレークを奪われ、スコアは0-3に。 「これは勝てない……。0-6,0-6で負けないようにしないと」 そんな焦燥が、鮎川の胸に押し寄せた。

 一方の清水には、この時点でも、そこまでリードしているという思いは無かったという。「相手にもチャンスはあったし、幾つかの大切なポイントを自分が取っただけ」。逆に、今は外れている相手の強打が、入りだしたら適応するのは難しいかもしれない……そんな不安要素を、どこかに抱えながらのリードだった。
 その不吉な予感は、半ば的中する。鮎川のフォアの強打が深く刺さりだすと、打ち合いの中で押される事態が増え始めた。3ゲーム連取を許し、スコアは4-3に。それでも、「ここは取りたい」と気持ちを引き締め続くゲームをキープしたことで、相手に傾きだした流れを堰き止める。第1セットは、清水が鮎川の追撃を振り切った。

 これで清水が勢いに乗るかと思われたが、第2セットは立ち上がりから鮎川が攻勢に出る。第1ゲームをブレークし、中盤までは完全に鮎川が支配した。
 そして鮎川サーブの、ゲームカウント4-3の局面。「ここが勝負だな」と直感した清水は、鮎川のサーブを確実に返すことに集中する。
 その清水のプレー向上に圧迫感を覚えた鮎川は、やや無理をして際どいコースを狙っては、結果的にミスを重ねた。
 狙い通り数少ないチャンスをモノにした清水は、手繰り寄せた主導権を最後まで手放さない。最終スコアは、6-3,6-4。終わってみればどちらのセットも、終盤の第8ゲームが勝負の分水嶺となった。
 
 試合後の表彰式で、鮎川は「ここがスタートライン」だと断言した。ベスト4に入った先週の牧ノ原大会と合わせ、キャリア最高の2週間を終えた今、彼女は「ここで満足したら次が見えなくなる。まだここで終わりたくないというのが正直な気持ち」だと言った。

 ここが鮎川のスタートラインなら、清水にとってこの優勝は、次のステージへの足がかりだろう。今季、ウインブルドンと全米オープン予選に出たことで、清水は「グランドスラムの本戦に出たい」との情熱を一層深めた。「あそこで勝つために、この大会にも出ている。全部つながっていると思っているので」それが清水の、率直な思いだ。

 決勝を戦った二人はともに、この試合から……この大会から何かをつかみ、そしてそれぞれの道を進む。

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。