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2019マッチレポート|準々決勝|穂積vs清水

内田 暁

■2019年大会マッチレポート②:準々決勝 穂積絵莉7-5, 6-3 清水綾乃■

 清水のショットがネットを叩いた時、穂積はコーチの方を振り返り、両手の拳を握りしめたままグッと空気を吸い込むと、一拍あけて「カモーン!」と叫び声をあげた。
  
 勝利の瞬間のこの歓喜の表出こそが、試合内容や勝利の意義を、端的に物語っていただろう。
 試合時間は、1時間48分。7-5,6-3のスコアを思えば十分に長いが、それ以上に長いように感じられたのは、試合が醸成する緊張感にこそあった。両者ともにショットの質は高く、なおかつミスなく長いラリーが続く。第1セットは終盤で穂積がブレークダウンから逆転し、勝利への1ポイントを奪うまでにも長い長い攻防が続くなど、スコア以上にスリリングで拮抗した展開でもあった。

 久々に穂積の試合を見た人なら、この日の彼女のプレーに、若干の違和感を覚えたかもしれない。19歳で全日本選手権のタイトルを手にした穂積の武器は、コートのどこからでもウイナーを奪える強打にこそある。一方で守備やフットワークには本人も苦手意識があったため、試合は勝敗に関わらず、比較的短時間で終わることが多かった。
 その彼女の試合展開に、ここ最近、変化が現れている。そしてその変化こそが、穂積が今現在取り組んでいる、新たなスタイル確立へのプロセスだ。
 「リスクを負いすぎずに、確率の高いプレーを選択する」
 その帰結としてラリーは以前よりも長くなり、当然ながら試合時間も長めになる。取り組み始めた当初はその事実に不安も覚えたが、続けるうちに、彼女の中で蓄積された自信と考えの変化があった。
 以前なら、届かないと思い諦めていたボールも、意識的に最後まで追うように心がける。すると、今まで自分の中で設けていた限界値が徐々に崩され、守備範囲の広がりを実感するようになってきた。「もう少し頑張れば届くようになるかも」と思えるから、トレーニングにも新たな目的意識が生まれる。そうして守備に自信が持てれば、意識せずとも自然に、遮二無二ウイナーを狙うことも少なくなった。
 それに加えて今大会では、コートサーフェスが球足の速い芝入り人工芝ということもあり、ここ数ヶ月よりは攻撃を意識する。結果、「確率の高いプレーと、自分の持ち味である攻撃のバランス」が、徐々に噛み合いはじめてきた。清水からの勝利は、今の穂積が目指すテニスの実践を示す果実。だからこそ、単なる「ベスト4進出」という結果以上に、穂積は勝利を喜んだ。

 もちろんベスト4は目指す地点ではなく、狙うは「優勝」だと穂積は断言する。ただ同時に、先を見すぎることも決してない。
 「1ポイントずつの積み上げの先にしか、勝利はない。ここからの2試合も、今までの取り組みを続けていくだけです」。
 そう言う今の彼女が目指すのは、まずは準決勝の、最初の1ポイントだ。

(ライター 内田暁)

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。