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2018マッチレポート|準決勝|鮎川vs澤柳 

内田 暁

2018年大会マッチレポート②:準決勝 鮎川真奈 6-1, 6-3 澤柳璃子

 試合当日の朝の練習時に、鮎川は「あれ? ちょっとおかしいぞ、自分!?」の思いに襲われた。
 腕が上手く触れていない。ラリーがなかなか続かない。
 彼女がその日戦う相手は、「意識しないように」と自らに言い聞かせるほどに、意識せざるを得ない選手である。
澤柳璃子は、同期のライバルであり、15歳からの3年間、毎日のように朝夕共に練習した友人だった。
「良い試合をしたいというより、勝ちたい……璃子に勝ちたいと思いすぎて、気持ちが空回りしてしまう」
過去の対戦では、いつもそうだった。今回はそうならないようにと思っていたのに……そして前日までは何も無かったのに、やはり朝の時点で硬くなっている自分がいた。
そこで彼女は、受け入れた。意識してしまう自分を。
だから、いつもとは違う自分のプレーになるだろうことも。

 対する澤柳は、特に相手を意識することはなかったという。少なくても彼女は、そう思っていた。だが試合が始まると、それまでに比べると動きが硬い。
 その相手の姿を見て、鮎川はいくぶん安堵した。
「相手も、私と同じように思ってたんだ……」
そう感じた時、やるべきことは明確になった。

 この試合での澤柳は、いつも以上にスライスやロブを多用した。ただそれは、鮎川にしてみれば想定内。170cmの長身から打ち下ろされる鮎川の強打を乱すため、鮎川と戦う時の澤柳は、いつも以上に緩急をつけてくる。だからこの日の鮎川は、我慢した。強打したい気持ちを抑え、「相手より1本でも多く返す」ことを肝に銘じたのだ。
 そのような鮎川の決意を、ネットを挟む澤柳も感じただろう。そこで彼女は、ネットプレーに活路を見いだした。ネットに出て、相手を一層振り回し、最後はスマッシュを豪快に決める。第2セット序盤は、澤柳が流れに乗りかけていた。
 その兆しを断ち切ったのが、第2セット第3ゲームに飛び出した“一撃”。ネットに出てきた澤柳の横を、バックの豪快な強打で抜いた鮎川は、この日一番の「カモン!」の叫び声をあげた。
「ずっと『いつか打ってやるぞ』と思っていたところで、やっと殻が破れた。気持ちよかった」
 それまで自分を抑え、勝利に徹していた鮎川が、ようやく束縛を打ち破るように放った“らしい”強打――。その1本のパッシングショットを起点として、鮎川が主導権を掌握した。最後は再びもつれかけたが、「ここを落としたら後がない」と自分を追い込み、そして勝ち切る。
 我慢をすること、そして、リードした展開から最後をしっかりしめること。
 それらの課題を克服して手にした勝利は、彼女の成長の証だった。

 ITF$25,000の決勝進出は、これが初めての経験。だが準決勝で勝利した時、鮎川に満足感や安堵はまるで無かったという。
「自分のテニスが今日は出来てないので。もっと出来るでしょ、と思っている自分がいます」。
 自分のテニスで優勝をつかみとるべく、決勝戦は、第1シードの清水綾乃へと向かっていく。

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。