とても、よく笑う——。

 それが、今大会での小堀桃子の印象だった。

 もっとも、彼女に近い人たちから聞くところによれば、以前からよく笑っていたらしい。ただメディアの前やコート上での彼女は、どちらかというと表情を変えず、クールなイメージが強かった。

 その彼女が今回の浜松では、公の場でも笑みを広げる。金色に近い髪色のように、表情やまとう空気が明るいように感じた。

 ポジティブなエネルギーは、コートで戦う姿からも滲みだす。仕掛けるタイミングが早い。ポイントを取った時には、ガッツポーズが飛び出す。それらも以前は、あまり見られなかった姿のように思う。

これも彼女と仲の良い選手から聞いた話だが、「最近、ハゲ打ちするようになったんだ!」と言っていたそう。「ハゲ打ち」とは、激しく打つことの意。小堀の武器はカウンターだが、それは受け身のテニスと表裏。自ら攻めて仕掛けるテニスに、意識的に変えてもいるようだ。

 その「ハゲ打ち」の件を本人に尋ねると、恥ずかしそうに目を細め、次のように明かしてくれた。

「攻撃が早くなったという意味では、そうかもしれないです。ボールの質を上げつつ、下がらないで前に前に入って打つ。以前は、ミスしないようにと考えていましたが、今は『ミスしても全然オッケー!』って感じです」

 確かに、彼女の意識は変わっていたようだ。そこで“ガッツポーズ”についても尋ねると、「えー、どうなんだろう……」と少し考えたのちに、彼女がポツリと言った。

「最近、鈴木(翔太郎)コーチが付いてきてくれる回数が増えたので、そのせいかなって思います」……と。

 コーチがツアーに同行してくれることの効能は、恐らくは、外野が思う以上に大きい。試合ごとに課題を見つけ、練習の充実度を上げられるのはもちろんのこと。常に絶対的な味方が居るという安心感は、コート上のパフォーマンスにも直結する。異国に行けば、ことさらだ。

 現に小堀も、コーチ帯同で何が変わったかとの問いに、「ちょっと、これあんまり関係ないかもしれませんが」と前置きしたうえで、こう続けた。

「海外遠征にいくと、日本人が少ない大会もある。特にWTAの大会 だと、周りはすごい選手ばっかり。そういう時に、“居場所”が一つあるっていうのは、自分的には大きいかもしれないです」

 笑顔、ハゲ打ち、そしてガッツポーズ——。

 今大会で見られた、小堀を構成する新要素の数々が、ぴたりと一つに重なった。

 

 今季の小堀はWTAツアーにも精力的に挑戦し、先週も香港オープンでシングルスでは予選を突破。ダブルスは準優勝と結果を残したばかりである。

好調に伴う負の側面は過密スケジュールで、今大会では疲労の蓄積も大きいだろう。太ももに巻かれたテーピングは、重ねた激闘の跡を物語るようだ。それでも本人は、「痛みは無いんですよ」と涼しく振る舞う。 

 ポジティブで、なおかつ、無欲——。それはきっと小堀桃子にとって、勝利への最高のレシピだ。


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