「こうやって試合後に話すと、自分のことが分かって良いですね」
シングルス・ベスト4進出を決めた試合後。取材に応じてくれた清水映里は、最後にそう言い小さく笑った。
もちろん、こちらを気遣っての発言でもあっただろう。ただ実際に、質問に応じる彼女の答えは理路整然としており、言葉の数々が無駄なく一つのロジックにはまっていく。その語り口調は彼女の今の充実度を、そのまま反映しているようだった。
「全日本選手権が終ってから、課題が明確になったんです」
今大会でのテーマを尋ねた時、清水は即座にそう答えた。
清水の武器は、左腕から繰り出す強打。攻撃力に定評のある彼女が、10月上旬の全日本選手権2回戦で敗れた時、自身の課題と本格的に向き合ったという。
「フットワークを強化していく必要があるなと思ったんです。私は、その場で打つのは得意なんですけど、左右に振られると攻撃力がガクッと下がってしまう。そこを強化することを、ずっと意識して練習してきました」
清水は昨年(2024年)末、キャリア最高位の296位に到達。グランドスラム予選出場権の200位以内が、見えるところにまで迫った。
ただ、出場する大会のグレードや対戦相手のレベルが上がるなかで、弱点も可視化されたという。それらの課題を克服すべく、今年4月には環境も変えた。「練習で苦しいと顔に出てしまう」という自分の退路を断つためにも、ジュニア時代に師事した田中宏幸コーチの門を叩いたのだ。
「もう私も、若くないので」
27歳は、少し照れたように笑った。
ではフットワーク向上のため、具体的にどのような取り組みをしてきたのか?
「もちろん、ジムでのトレーニングも含めてですが、オンコートで振られた時の対応力は、身体で覚えるしかないと思ってます」と清水が言う。
試合での状況を想定し、チューブやメディシンボールを使って必要な筋力を強化する。「パワー負けしないために、身体を大きく使う」ことにも注力した。それは地味で地道な取り組み。結局のところ、最後にものを言うのは、反復練習だった。
今大会での準決勝の勝利は、それら取り組みの果実だと言えるだろう。対戦相手の齋藤咲良は、球質の高さと、両翼からの展開力に定評のある実力者。実際に試合では、清水が左右に走らされる場面も多かった。ただ、全力で走り追いついた苦しい体勢からも、清水はスピンを掛けた重いショットをライン際へと打ち返す。最後まで自分を信じて攻め抜き、6-4,4-6,6-4の死闘を制した。
早稲田大学を卒業しプロに転向した時、清水は「5年以内に、納得できる結果を出したい」と思っていたという。
今が、その5年目。もちろん、「グランドスラム出場」の目標に変わりはない。ただ、目的地にばかり目を向けているわけでもない。
「今の課題に取り組みつつ、目の前の一試合ずつを戦う先で、目標に近づけたら良いなと思いながらやっています」
小堀桃子との決勝戦にも、同じ心持ちで臨む。
