小堀桃子と、清水映里。

この二人には、いくつかの共通点があった。

ともに1998年生まれの27歳。身長は小堀が158センチで、清水は160センチと似た体格。現在のランキングも、436位と444位と近い。

もっとも、辿ってきた道のりは異なる。

ジュニア時代に多くの国内タイトルに輝いてきた小堀は、高校卒業と同時にプロの道を歩み始めた。キャリア最高位は、20歳の時に到達した226位。だがその後は、200位の壁が破れない時期が続く。昨夏は3か月コートに立てない時期を過ごし、ランキングも900位まで下降した。

それでも後が無くなったことで、逆に「ふっきれた」と本人が笑う。今季はWTAツアーや苦手意識を抱くクレー(赤土)コートの大会にも積極的に参戦し、上り調子で11月の浜松ウイメンズオープンを迎えていた。

一方の清水は、早稲田大学を経てのプロ転向。最高位の296位に達したのは、ちょうど1年前だった。ただランキングが上がり、戦う土俵も上がったなかで、課題も浮かび上がっていく。

「私は、その場で足を止めて打つのは得意だけれど、走りながらだとミスが多くなる」と清水が明かす。弱点を克服すべく、フットワーク強化に特化してきた数か月間。その成果を実感しながら勝ち上がり、そして至ったのが、今大会の決勝戦だった。

プレースタイルも、二人は対照的だ。

小堀は右利きで、清水はサウスポー。スピンを掛けた強打が武器の清水に対し、小堀は相手の球威を生かすカウンターパンチャー。

清水がいかにストロークの高低差も生かしつつ、小堀の打点をずらせるか? あるいは小堀が、ボールの跳ね際を叩き、低い軌道のショットで清水のスピンを封じるか? 決勝戦の焦点は、どちらが先に仕掛け、ストローク戦で主導権を握るかに絞られていった。

迎えた、決勝戦――。朝から降り始めた雨を避け、屋根を備えたコートで行われた頂上決戦は、予想通りの激しい打ち合いとなる。清水が左腕を振り上げると、ボールはコートぎりぎりに刺さり、小堀の射程圏から逃げるように大きくワイドへ逸れていく。対して小堀の打球は、ネットをかすめて砂入り人工芝の上を低く滑る。あいにくの悪天候にも関わらず、観戦に訪れた熱心なファンで埋まるスタンドからは、両者がボールを打つたびに、「おー!」と感嘆の声が上がった。ネットを挟み、二人は各々が積み重ねてきたテニスを、全身で表現していた。

両者の狙いは、明確だ。左腕の清水としては、自分のフォア対小堀のバックのクロスラリーを続けたいところ。対する小堀は、バックに来たボールに軽くラケットを合わせて、無理なくストレートへと切り返す。同時に自身のポジションを上げ、ネジを巻くように、打ち合いのリズムを上げていった。

こうなると、時間が欲しい清水が苦しくなる。

ただそれでも、清水は下がらない。それは「今取り組んでいるテニスを貫きたい」との思いが強かったからだ。

「左右に振られても、自分からしっかり刺さる強いボールを打っていくのが、今の課題。それにトライし続けたかった」

だから清水は、攻め続けた。

下がらず強打を打ち続ける清水の覚悟は、ボールを打つラケットを介して、小堀にも伝わっていただろう。それでも小堀は、「苦しい場面でも、踏ん張れた」と試合後に凛と言う。

「今年は、WTAツアーやヨーロッパにも遠征して、強い選手ともたくさん戦ってきた。素地の力が上がっている」

それが小堀の手応えであり、矜持でもあるだろう。第1セットは最初のゲームでブレークされるが、直後に追いつき、ゲームカウント2-2から一気に抜け出した。

第2セットでも先にブレークを許しはするも、試合が進むにつれ、時間と空間を支配していったのは小堀の方。特にリターンでは、ポジションを上げ、清水がサーブを打つより早くコースへと動いた。その予測能力は、小堀曰く「あまり自信のないフットワークをカバーするため、子どもの頃から自然とやっていた」なかで磨いた彼女の武器。「読み」や「勘」などの言葉で表現されがちだが、その実態は、積み重ねた経験をベースにはじき出す確率論だろう。

試合開始から、1時間15分――。鋭いリターンから清水を揺さぶった小堀が、最後は迷うことなくネットに詰め、ボレーをオープンコートに柔らかく沈める。今大会の……、いや、今季の小堀を象徴するかのような、洗練と攻撃戦をブレンドしたウイニングショットだった。

頂上決戦の舞台であるコートは、試合が終わった直後には、セレモニーの場に変わる。

準優勝のトロフィーを手にする清水は、スピーチの途中で涙を流した。

「悔しさもあったけれど、いろんな感情が沸き上がって、自分でも理由の分からない涙が出てきちゃいました」

 後に清水は、恥ずかしそうに振り返る。

「スピーチ、やり直したいです。本当は、桃子ちゃんにも祝福やお礼を言いたかったのに……」

それが、自分のプレーについては「悔いはない」と明言した清水が、浜松に残した悔いだ。

一方、月桂冠を戴く小堀は表彰式で、優勝した瞬間よりも柔らかな笑みを広げて言った。

「映里ちゃんとは、同じ27歳の同期。また、大きな大会の決勝戦で戦いたいです」

二人の足跡が重なったこの浜松大会は、世界への扉を大きく開く港でしかない。ここから旅立つ二人の航路は、またどこかで交わるだろう。そして二人が願うその地は、より大きな舞台だ。

清水映里

小堀桃子


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