2022年大会注目選手②
細木咲良:”プロスタートライン”から踏み出す、プロとしての新たなステージ”
5年前――高校2年生だった彼女は、この浜松ウィメンズオープンに“大会主催者枠”……いわゆるワイルドカードを得て出場していた。
地元の島根県開催のインターハイを制した、話題の高校生チャンピオン。
ただプレー以上に印象に残っているのは、大会会場の一角で、トーナントディレクターの青山剛や、アシスタントディレクターで元プロプレーヤーの黒田祐加らと、熱心に話しこむ姿だった。
プロを視野に入れながらも、プロとは何か、何をしていくのかが判然としていなかった時分。
そんな彼女はこの時、青山や黒田から、文字通りプロが歩む“道”のレクチャーを受けていたのだ。
「わたしの周りには、ランキングポイントとかについて知っている人がいなかったので。本当にここに来て、ITF大会の仕組みを知った感じです。どうやったらポンイントを取れて、ランキングがつくには何大会に出なくてはいけない、何ポイント必要だとか、そういうことを教えて頂きました」
細木咲良、当時17歳。
彼女にとって浜松ウィメンズオープンは、初めて出場する“プロの大会”だった。
父親がテニスコーチで、しかも父が務めるのは、あの錦織圭が育ったグリーンテニススクール。
幼い頃からテニスに親しみ、ジュニア時代から注目されてきた彼女にとって、プロ転向はある意味で敷かれたレールだったかもしれない。
ただいざその道に足を踏み出すと、すぐに「厳しい世界」であることを知る。
「3大会でポイントを取らないと、ランキングがつかない。浜松でワイルドカードを頂き、そこで1点を得たので、年内にあと2点取らなくてはいけなかったんです。でも(賞金総額)15,000ドルの大会に出ても、予選を勝ち上がれない。15,000の大会だと本戦で1つ勝たないとポイントが取れないので、それが凄く大変で……」
それまで、大会に出れば上位に勝ち進むのが当然だった彼女にとり、予選すら突破できないのは初めての経験。
「試合を投げ出す人がいない。メンタルが強く、最後まで戦う」
それが実際にネットを挟み肌身で感じた、“プロ”の定義だった。
細き道を進むのにあえぐなか、一つの転機となったのは、コロナ禍によるツアー中断期だったという。彼女が現在拠点とするのは、兵庫県の“テニスラボ”。日比野菜緒や加藤未唯ら多くのトッププロが拠点とし、竹内映二を筆頭に経験豊富な指導者が集う環境だ。
パンデミック間、細木はトレーニングや技術改善にもつとめ、テニスの土台を鍛え直した。
そしてツアーが再開した時、「サービスゲームからの展開力」に特に成長を感じられたという。
大きなブースターとなったのは、昨年3月のエジプト開催の15,000ドル大会。決勝で穂積絵莉を破り優勝したことだ。
「穂積さんはランキングがわたしより遥かに上なので、チャレンジャーの気持ちで挑んだら勝てた。だからどんな相手でも、チャレンジャーの気持ちでやろうと思いました」そこからは白星にも恵まれ、何より「テニスが楽しくなってきた」という。
今季は既に、チュニジア開催の15,000ドル大会で3大会連続優勝の快進撃。
現在のランキングは328位で、キャリア最高位を更新中だ。そんな彼女が今欲しているのは、もう一つの上のグレードである2,5000ドル大会優勝。
年内にタイトルをつかむことができれば、目標とする「年内にランキングを200位台に上げ、来年の全豪オープン予選に出場すること」にも大きく近づく。
プロとしての自覚を得た彼女が、踏みだそうとする次なるプロのステージ。その新たな始まりの地として、この浜松ウィメンズオープン以上に相応しい大会はないだろう。