「楽しかったです、仕事やってて」——。映像を通してテニスの、大会の魅力を伝えることを望むテレビマン

「何か、テニスのコンテンツを作っていけないだろうか——?」

 浜松ウイメンズオープンの“メディアディレクター”を務める三井智之氏は、自身のモチベーションを、そう語った。

 三井氏の日ごろの役職は、CSスポーツ専門チャンネル『GAORA』の社員。制作部のテニス担当として長く現場で働いたが、昨年の春より、営業部に移った。

 ただ異動後も、三井氏のテニスへの愛着は薄れない。『GAORA』のCS放送がテニス中継に割く時間が少なくなるなか、何か新しい仕掛けができないかと思のいが、日に日に募る最中でもあった。

 そこで国内開催の大会に、「僕らがコンテンツを作りますよ」と働きかけたという。その中で、「ぜひよろしくお願いします」との色よい返事を得られたのが、この浜松開催のITF25,000ドル大会だった。

 三井氏たちが今大会で制作するのは、大会公式YouTubeや、ソーシャルメディア用の動画コンテンツ。試合のハイライトをはじめ、選手のインタビューや、同会場で行われているイベント等の風景もある。

「インターネットやソーシャルメディアの利点は、自由度が高いところ。大会の公式として、試合だけではなく、選手の素顔などを映像として発信できる。そういうことは今までもやりたかったけれど、なかなかテレビでは難しかったところもあったんです。それをこういう形なら、自分たちで作って発信できる。思いついたものを何かしら形に出来るのが、一番大きなところですね。『なんでもやってみよう!』という気持ちになれます」

 自らカメラを手に会場を歩き回り、試合の様子を捕え、観客の動きに目をこらし、選手にインタビューもする三井氏は、仕事のやりがいをそう語る。

 現場のスタッフは、三井氏を含めて二人。毎日数本のコンテンツをアップするため、撮影および編集作業は、その日のうちに終えねばならない。ただ幸運なのは、カナダのバンクーバーに一人、ディレクターが居ることだ。

「時差が16時間あるので、逆に助かるんです。僕らが夜中の12時頃までにバーッとVTRを作ると、バンクーバーのディレクターがそこからサムネイルを作って、指定の場所にアップしてくれる」

 この日加の時差によりタイムラグなく、即日に動画がアップされるというカラクリだ。

  制作部時代の三井氏は、東レパンパシフィックオープンやジャパンオープンなど、ATPやWTAのツアー大会を担当してきた。それだけに昨年、浜松の大会会場を訪れ、選手たちが観客やファンと気さくに交流する姿を見て、新鮮な驚きを覚えたという。

「大会のカテゴリーの差もあるとは思いますが、すごく選手とお客さんの距離が近い。お客さんが選手に話しかけたり、大会に何回も来ている選手は地元のお客さんの顔を覚えていたり。こんなにファンと選手が近い国際大会あるんだというのは、去年感じたことでした。こういう大会もあっていいんだなと思ったし、楽しかったですね、仕事やっていて」

 そんな自身が覚えた楽しさを、「絵」……すなわち映像に収めたいとの衝動に駆られるのは、やはりテレビマンの性だ。

「ファンと選手が交流する場に立ち会えたらと思うんですが、なかなか難しいんですよね、カメラを持っているタイミングもあるので。やはり『絵』がないと、どうしても何かを伝えることが出来ないっていうのは、僕らの仕事ではあるので……」

 そんな「おいしいシーン」に立ち会い、カメラに収める一瞬——。それこそが、「この仕事やっていて、本当によかったな」との喜びがこみ上げる、掛け替えのない瞬間だ。

(ライター・内田暁)

https://www.youtube.com/@hwopen