「やり始めて一年しないうちに、もう、プロになりたいなと思い始めた気がします」

 顔中に明るい色を灯し、色川渚月が言った。

去る10月16日に誕生日を迎えたばかりの、15歳。“ワイルドカード選手権”を制した彼女は、11月4日に本戦が開幕する浜松ウインメンズオープンで、念願の“大人の国際大会デビュー”を果たす。

 浜松ウイメンズオープンは、“ITF W35“と称されるカテゴリー。「ITF」は「International Tennis Fedeation(=国際テニス連盟)」の略であり、「W35」は、優勝者が得られる35ポイントを示す。本戦に出るには600位前後の世界ランキングが必要であり、そこに届かない選手たちは、予選からの長い道を歩むのが本来の順路だ。

 ただこの大会には、より多くの若手たちに、世界へ羽ばたくチャンスを与えたいとの理念がある。かつて徳川家康が天下統一の礎を築き、「出世の町」と謳われるこの土地の気風もあるだろうか。いずれにしても浜松ウイメンズオープンでは“ワイルドカード選手権”が開催され、この予備大会を勝ち抜いた一名は、本戦への切符を手にできる。参加可能な年齢は20歳以下。ランキングも必要ない。若手にとっては、いきなり世界のとば口へと続く“どこでもドア”だ。

 一年ほど前から色川は、なるべく早く、ITF公認の“大人”の大会に出たいと願っていたという。大人の国際大会に出られるのは、14歳から。8歳でテニスを始め、ほどなく「グランドスラムで活躍するようなテニス選手になりたい!」と願った色川にとって、プロは夢ではなく、夢をかなえるためのプロセスである。

まずは、ジュニアの国際大会に出てランキングを上げ、グランドスラムのジュニア部門に出場。同時に14歳ころから“大人”の国際大会にも出場して、WTAランキングを上げていく……。

そのような夢への順路は、自分で学び、分からないことはCSJつくばテニスガーデンのコーチたちに教えてもらいながら、思い描いていたという。ワイルドカード(WC)選手権の存在を教えてくれたのも、コーチ。「いつか挑戦してみたい」と願っていたその「いつか」が、今になった。

世界への順路を知る彼女は、自分のプレースタイルを構築するプロセスについても、自覚的だ。今現在、憧れる選手は男子世界1位のヤニック・シナー。「全てのボールにしっかり入り、どこからでも自分のイメージ通りに打つような感じ」に羨望の目を向ける。

ただ同時に、「自分の身体能力や体格に応じたテニスをしなくてはいけない」と、現実的で俯瞰的な視線も持つ。「ラリーのテンポを上げ下げしたり、いろんなボールを使って相手を崩すテニス」が、自分の強みであり、磨きを掛けたい部分だという。

今回のワイルドカード選手権でも、彼女はその持ち味を発揮した。ワイルドカード選手権は、ショートセットマッチを二日間で5試合戦い抜くため、素早い適応力や修正能力が求められる。

その短期決戦に挑むにあたり、色川が掲げたテーマは、「バックのストレート」の使い方だ。バックは彼女が最も自信を持つショットであり、クロスからストレートへの展開は、好きなポイントパターン。ただ、あまりに決めたいとの思いが強すぎ、際どいコースを狙い過ぎるきらいがあった。

そこで現在、注力しているのが、「ボールの質で押していく」こと。

「コース重視ではなく、質の高いボールで相手を押しこみ、次で決めることを考えるようにしています」と色川。そのように考えるようになったのは、最近は海外のジュニア大会にも出場し、多くの選手と対戦してきたことも大きい。

「日本人だったら決まるボールでも、リーチの長い海外の選手には拾われたりする。クレーだとしつこい選手も多いので、一発に頼らず、何度も何度も狙っていく我慢強さが大事だなと思いました」

それら経験に根ざす意識改革の成果こそが、今大会の本戦WC獲得だ。

初の大人の大会で、欲するのは「強い選手との試合」。自らの手で挑戦権を手にした15歳は、大人の世界への扉を開き、その先へと大きく踏み出していく。


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