■2019年注目選手紹介②:吉岡希紗■
彼女には今大会、自分の中で掲げる、一つの「テーマ」があった。
無理に決めようとして、博打的なショットは打たない。
コーナーに打って相手に鋭角に返されるよりは、センターにしっかり強いボールを打ち返す。
それは彼女が今年から進学した、早稲田大学テニス部のコーチにも言われてきたことである。
「打ちたくなるのを抑えて、学生テニスでも使えるプレーを身につけるため、センターに打つように心がけています」
吉岡が掲げる課題とは、つまりそういうことだった。
地元の東静岡でジュニア時代から活躍し、四日市商業高校時代は全国選抜も制した吉岡の持ち味は、長い左腕を鞭のようにしならせ、ライン際へと打ち込む強打。だが、一発でウイナーも奪えるその武器が、時に攻め急ぎやミスを生む諸刃の剣にもなる。
だからこそ大学での吉岡は、確実性の高い選択を求められ、自らもミスの少ないプレーを追った。それは常勝・早稲田の看板を背負う、強者の宿命でもあるだろう。
吉岡がそのように「学生テニスでも使えるプレー」を目指すのは、今年の早稲田が13年間守り続けてきた、大学テニス団体戦の日本一決定戦“大学王座”を逃したことも背景にあるだろうか。
「大学も、テニスのために早稲田に入った」との自負を持つ彼女には、1年生とはいえ、双肩に掛かる責任がある。今年の王座を制した筑波大学のメンバーに、同期で同じ東海地区出身の阿部宏美が居ることも、悔しさに拍車を掛けた。「王座に出られなかったことを、良い方向に向かうきっかけにしなければ」
その決意こそが、彼女にさらなる自覚を促した要因だろう。
とはいえ、浜松オープンのようなITF(国際テニス連盟)主催の国際大会は、いつもとは異なる雰囲気のなか、プロ相手に戦える貴重な経験の場でもある。2年前に、牧ノ原開催の国際大会でベスト8に入った時も、勝ちを意識しすぎず、挑戦者の気持ちで向かっていけたのが勝因だった。
今大会で掲げるテーマに、本来の持ち味である強打や勝負師の勘がブレンドされたとき、彼女はきっと、新たな自分に出会えるはずだ。