■2019年大会注目選手紹介⑥:山口芽生■

 小柄な身体が、コート上で軽やかに飛び跳ねる。
 小気味よくボールを相手コートに打ち込み、ウイナーを決めては満面の笑顔を見せ、ミスした時は文字通り地団駄を踏んで悔しがった。

 まだあどけなさを残すその姿や表情は、まるでテニスを始めたばかりの少女のように、新鮮な喜びにあふれている。果たして、今年20歳を迎えた山口芽生は、「テニスがすごく楽しいんです!」と顔中に笑みを広げた。

 彼女がテニスに恋したのは、5歳の頃だったという。テレビで見た実写版『エースをねらえ!』が、始まりの時だった。
「私も、あれをやりたい!」
 必死にねだる幼い我が子を、両親は、「もうすぐ引っ越しだから、新しい町で始めましょう」となだめた。結果として、そのタイミングも引っ越した先も、彼女を、より深くテニスの道へと誘う。新居の隣には、テニスクラブに通う同じ年の男の子が居て、彼と一緒に通うようになったそのクラブは、プロ選手が輩出する名門だったのだ。その時から今も変わらず、埼玉県の“Fテニス”が彼女の拠点である。
「フェンスまでぶつけるほどにボールを打とう!」
 コーチの声に合わせて、全力でボールを叩いた時に全身を駆けめぐった高揚感と楽しさは、今も変わらず彼女の中に脈動する。
 とにかくテニスが大好き、ボールを打つのが楽しい――その時の少女が、そのまま大きくなったような選手が、山口だ。
 
 ジュニア時代には、これといって目立った戦績は残していない。今大会の1回戦で対戦した、第8シードで同期の本玉真唯は、「こーんなに上の存在だった」と、山口は手を目一杯に空へと伸ばす。それでも彼女もコーチたちも、目先の勝利に捕らわれて、目指す方向性を変えることは無かったという。ドロップショットなど新たな技も体得しつつ、彼女がテニスに魅入られた原点である「ボールを打つ喜び」をすくすくと伸ばし、今大会ではITF$25,000クラス大会で初のベスト4入りを果たした。

 テニスをはじめた時と同様に、彼女が無垢に目指すのは、子供の頃にテレビで見て胸をときめかせた、全仏オープンのセンターコートだ。
 テニスの楽しさをコート上で目一杯体現しながら、夢へとまっすぐに進んでいく。

(ライター 内田暁)