2022年大会注目選手③
山﨑郁美:連勝街道を疾走中!心技体が噛み合いだした大学女王の現在地

長い試合、粘り強い戦いは、山﨑郁美のトレードマークでもあるだろう。

それにしても、初戦で小堀桃子相手に1-6、そして1-5まで追い込まれた時、ここから彼女の大逆襲が始まることを予感できた人は居なかったはずだ。

「このままでは本当に後悔する。一回自分を捨てて、相手をしっかり見ようと思いました」

この時の心境を、山﨑はそう振り返る。
後が無い状況から1ポイントずつを奪い返し、複数のマッチポイントをも凌ぎ、本人いわく「気付けば第2セットは7-5」。
第3セットも先にブレークされる苦しい展開ながら、大逆転勝利を手にした。

「一回自分を捨てて」と言った山﨑だが、現在彼女ほど、自分を捨てるのが難しい選手もいないだろう。
8月末の全日本学生テニス選手権(通称インカレ)で、大学テニス界の頂点に立つ。
さらには先週の牧之原25000ドル大会でも優勝し、国際大会初タイトルをつかんだばかりだ。

好調の要因は、「サーブを軸に試合を展開できる」ようになったこと。だが小堀との試合では、そのサーブが入らなかった。
好調な時ほど、その武器が不調に陥ると「なんで」と自分を責めがちだろう。勝ってきたというプライドは、変化への拒絶になりかねない。
ただ山﨑はあっさりと「そこにこだわりは無かったです」と言う。
「勝ちたかった」——理由は、この一点につきた。

現在、亜細亜大学3年生の山﨑は、入学当初から「卒業後はプロ」と決めていた。武器はコートを縦横に駆ける脚力と、多彩なショットで相手を崩し主導権を握る戦略性。今年の春には海外遠征に出て、世界のテニスを体感してきた。パワーに勝る海外勢との試合を通じ、自らの武器を磨くことに一層のモチベーションを得た様子だ。

なお、優勝した牧之原大会の決勝で、山﨑が対戦したのは15歳の木下晴結。木下もゲーム構築力に長ける選手だが、勝者の山﨑を「すごく賢いプレーをする選手」と評し、敗因を「自分のプレーをさせてもらえなかった」と語った。

テニスのランキングポイントは、獲得から1年で消失する。それだけに山﨑は、先週獲得したポイントを生かして、ここから先の1年間は、積極的に海外遠征にも行きたいとの思いもあると言った。
「ただ……」と、生真面目そうな表情に、困ったような笑みを漂わせる。
「大学の授業があるので……そことの兼ね合いですね」

ちなみに大学での学部は法学部で、「会社法とか、民法、憲法……六法はだいたい勉強します」という。後期に待っている授業は「犯罪心理学」。相当にベタな質問と思いつつ、伺ってみる。
「犯罪心理学は、テニスで相手の心理を読むのにも生かせそう?」……と。

返ってきたのは、「えー、どうなんでしょう」という、困ったような笑み。

謙虚で真面目なベースに、勝利を何より欲する闘争心と、相手と自身を冷静に分析する頭脳を配剤して、学生女王が世界の舞台へと躍り出る。