2022年大会注目選手④華谷和生
豊富なツアー転戦と、希少な日本の大会で得た教訓。求道者、華谷が浜松で得た新たな学びと自信とは?
正午を告げるチャイムの音を聞きながら、彼女は、試合開始から2時間経ったことを知った。
午前10時に始まった、準々決勝の第一試合。対戦相手の清水映里は、スピンショットで相手を後方に押し込み、強打で攻めるのがポイントパターンだ。
それを知る華谷は、「とにかく我慢強く戦い、相手のミスを誘いながら、甘いボールが来たら攻める」とのプランを立てて挑んだ。もとより長い試合は、想定内で望むところ。3時間23分、5-7,6-4,6-4の死闘を制した背景にあったのは、そんな心構えだった。
昨年の華谷は、26のITF大会に出場している。
日本では国際大会が開催されなかったのだから、必然的に、すべてが海外遠征だ。コロナ禍以前にも、北米やオーストラリアには多く足を運んだ華谷だが、それだけでは足りなく、ヨーロッパの大会にも挑んだ。
「コロナ禍になってから、アジアには試合がないので、どうしてもヨーロッパにも行かなくてはいけなくなったんですが、最初は全然勝てなくて。でもヨーロッパは、北米やオーストラリアとはまた違う、それぞれに面白さがあって勉強になる。そこでどうやって次は勝ち上がっていくかを考えて試合するのは、しんどいんですが、すごく濃厚な時間をすごせます」
同時に身に染みて知ったのは、「世界ランキングは、必ずしも実力と合致する訳ではない」という真理。
「そのことを、めちゃめちゃ実感します。 ヨーロッパの若い選手は、精神的にも大人びているというか、成熟が早い選手が増えている気がします。テニスも粗さがなく完成度が高い。ランキングはまだ低くても強い若手選手がたくさんいます」。
そのなかで華谷が自分に言い聞かせたのは、「フィジカルを鍛えなくてはいけない」ということ。
「ツアーを転戦するには、1大会で最大5試合戦うことを、繰り返さなくてはいけない」。 長い遠征を戦い抜くうえで、基礎の基礎となるのが、やはりフィジカル。遠征を重ね、その厳しい現実を身を持って知ったからこその、3時間23分の勝利だろう。
それら海外での「チャレンジ」を経て、華谷が国内の大会に出たのは2年半ぶりほどになる。9月の東レパンパシフィックオープン予選を皮切りに、能登、牧之原、そして浜松のITF25,000ドル大会に3週連続出場。
その一つの牧之原で、華谷は初戦敗退を喫した。相手は予選上がりで、15歳の木下晴結。ノーランカーのジュニア選手だった。
相手が15歳であることを、試合中に意識したつもりはない。ただ後に周囲の人たちからは、「余裕がなく、いっぱいいっぱい見えた」と言われたという。海外遠征では、相手が誰でも挑戦者の気持ちでいた華谷だが、日本で若手を相手にした時、どこかで力が入りすぎていたのだろう。
その敗戦は、もちろんショックではあった。ただ、「良い勉強になった」と彼女は言う。「ふてくされることもできるんですけが、そんなことを言える立場でもないので、もう勉強するしかない。今までは私も日本では若い方でしたが、上の選手たちが突然、引退されたりで居なくなって……。自分より若い選手とやることも増えるので、そのあたりの気持ちは勉強しなくてはと思いました」
幸か不幸か、「勉強」の成果を試す機会は、早くも翌週の浜松で訪れる。今大会の初戦で華谷が対戦したのは、予選上がりで17歳の虫賀心央。牧之原の再現のような状況が訪れた。
これを不運と捕らえるか、あるいは教訓を生かす好機と見るかで、結果も得られるものも大きく変わってくるだろう。そして彼女は、後者の視座に立つ。
試合中にも状況を俯瞰し、過度に相手を意識せず、やるべきことに徹する。
その結果手にした6-2、6-3の快勝は、自分が選んだ道を信じる一つの根拠となった。
異国での経験は、希少であり、ゆえに学びが多い。ただ海外遠征が主軸になれば、当然ながら日本での戦いが希少になり、だからこそ新たな経験と学びがある。
世代交代が進み、自身の立ち位置も変わりゆくなかで、プロ5年目の27歳は、学びの旅(=ツアー)に生きている。