似た試合展開に、似た構図の二つの準決勝。
制した二人は、成長の季節を疾走する加治と山﨑。

 

大会も残すところ2日となった、土曜日――。
 センターコートで続けて行われた2試合は、いずれも2時間を超えるフルセットであり、スコアも、そして相対する両者の構図も、極めて似通ったものとなった。

加治遥vs華谷和生

 

先に行われたのは、加治遥対華谷和生の同期対決。華谷は早生まれではあるが、いわゆる“学年”的には加治と同じ1994年組。この世代には日比野菜緒や穂積絵里、二宮真琴に加藤未唯ら、ジュニア時代から世界で活躍した選手が綺羅星のごとく並ぶ。その中にあっては大学に進んだ加治も、そしてプロ転向まで時間を要した華谷も、遅咲きの部類に属するだろう。なお両者の対戦は、過去4戦。勝ち星を2つずつ分け合っている。

「華谷さんはスピンを使ってペースを少し落とし、ラリーにもってくるというのは分かっていた」と、試合後に加治は言う。ただ分かってはいても、実際には緊張もあり対応に苦しんだ。

 優れたフィジカルを生かし、質の高いストロークを打ち続ける加治の端正なテニスを、華谷はペースを意図的に落とすことで崩していく。その策にはまった加治にミスが増え、第1セットは1-6で落とした。

 第2セットに入ると加治は、「まずはミスを減らす」ことを重視したという。
「無理にサイドに打たず、しっかりラリーすることにフォーカスしたら、ちょっとずつポイントが取れるようになった」。
 フォアのストロークを深く打ち込む加治が、自らに流れを引き寄せる。ゲームカウント2-2から抜け出し、6-2でセットを奪い返した。

 最終セットは、勢いに勝る加治が常にリードするも、その都度、華谷が食い下がる展開に。ゲームカウント4-3でブレークした加治が、5-3でサービングフォーザマッチを迎えるも華谷がブレークバック。流れが変わるかに思われたが、最後は加治が三たびブレークし、7-5で最終セットをもぎ取った。

山﨑郁美vs西郷里奈

 

センターコートで続けて行われた山﨑対西郷の二人は、同じクラブ出身で、高校の先輩後輩の関係。互いを知り尽くしているのは加治対華谷と似た相関。ただ異なるのは、ジュニア時代から直近の対戦も含め、山﨑は一度も西郷に勝ったことが無い点である。
「(西郷)里奈ちゃんは憧れで、後を付いていこうと思っていた。高校でも里奈ちゃんが居たから、団体戦で全国に行けた」
 一歳年長者に向ける憧憬を、山﨑は隠そうともしなかった。

 そのような関係性が、試合に入る両者の心理を隔てただろうか。西郷が打ち込む強打に、山﨑は防戦一方に追い込まれる。
「(西郷)里奈ちゃんのボールを打つ音にビックリした」という山﨑が、第1セットを2-6で落とした。

 第2セットに入った時、山﨑が考えたのは「一球ずつ返そう」だけだったという。すると、スピンの効いた重いショットが、ベースラインを深く捉えはじめる。時には浅いボールで相手の体勢を崩すが、これは本人曰く「本当は深く返したかったのが浅くなっただけ」。いずれにしても西郷の強打を封じた山﨑が、第2セットは6-1と走った。
 最終セットも山﨑が、2ゲームをブレークし3-0とリード。だが、やや勝利を意識した山﨑のサーブの精度が下がったのを、西郷は見逃さない。山﨑のサービングフォーザマッチをブレークし、西郷が5-5と追いついた。
 これで潮目は変わったかに思われたが、脚力を生かし、長いラリーをことごとくものにした山﨑が、3度のデュースの末に最終ゲームをキープ。西郷からつかみとった人生初勝利は、決勝進出を決める殊勲の星でもあった。

 加治は2週前に石川県七尾市で開催された25,000ドル大会の、そして山﨑は先週の牧之原25,000ドル大会の優勝者。今大会の決勝は、現在好調で旬な二人の顔合わせとなった。加えるなら、今を成長の時と自覚していることも両選手の共通点だ。

 加治は自分のテニスが噛み合う音を、今年7月に聞いたという。
「コロナ禍のツアー中断中にいろんな取り組みをして、逆に自分のテニスを見失いかけたんです。でも練習をしっかりして、これだったら行けると思えた週があって」。
 その週とは具体的には、9週連続で欧州遠征に出ていた時。
「ヨーロッパに行った1~2週目は良くなかったんですが、2大会目後に練習をし、3大会目の週でようやく噛み合った。フォーカスすべきことをコーチと話し合って決めて、それが少しずつハマった感じです」。
 実際にタフな欧州の連戦でも、手応えは徐々に結果に表れる。「砂入り人工芝のコートは苦手」と苦笑いするが、率直にそう言えるのも自信あってこそだろう。

 一方の山﨑は、牧之原大会で、自分のテニスを次のレベルへ引き上げる鍵をつかむ。
 その理由を山﨑は、「亜細亜大学の森(稔詞)コーチに帯同してもらったこと」だと言った。
「試合をやっていくなかで、どんどんアドバイスをもらいながら、成長できた」。
 その成果が自信となり、「どんな状況でも諦めない」ことでさらなる勝利を得る好循環に、今の山﨑は身を委ねている。

 なお両者に、過去の対戦経験はなし。
 急速に自身のテニスを確立しつつある二人の初顔合わせは、高次で噛み合う好ゲームになりそうだ。