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HAMAMATSU WOMEN'S OPEN / COLUMN / ■2021年大会注目選手②:伊藤あおい■

■2021年大会注目選手②:伊藤あおい■

内田 暁

 
 
 
 
 ポイント間やチェンジオーバー時、重い足を引きずるように、うつむき加減でセットポジションへと向かう。
 気合の声をあげ打ち込む相手の強打には、軽くラケットを合わせてカウンターを放ち、ポイントを決めても大きく喜ぶことはない。
 それらの姿に劣勢かと思いきや、気が付くと、スコアボードには勝利の数字が並んでいる。
 不思議な佇まいに、つかみどころのないテニス。
 ただそれも、目指すのが「シェイ・スーウェイ(謝淑薇)さんと伊達公子さんを足したテニス」と聞けば、納得だ。
 「誰をお手本にするかは、お父さんが考えてくれたんです。世界で勝てるプレーということで」
 コート上の「省エネ」とは対照的に、まだ少女のように細い腕をせわしなく動かしながら、伊藤あおいは、手ぶり身振りつきで明快に説明した。
 4歳年長の姉と共に父の手ほどきでテニスを始めた伊藤は、小学6年生の頃から、大人たちに交じって一般の大会に出ていたという。子ども特有の運動量で大人に対応してきたかと思いきや、伊藤が体得したのは、相手のパワーを時に利用し、時にスルリといなすテニス。
 「トーナメントを勝ち上がるために目指しています」と明言する省エネテニスの神髄とは、「取るボールを見極める。無理だと思ったら諦める」こと。自らそう言った直後には、「マネしちゃダメですが。コーチには、ちゃんと追えとめっちゃ怒られますんで」と首をすくめた。
 子どもの頃は、大人相手に「負けて当然」と思っていたテニスが、17歳になった最近では近い世代との対戦も増え、勝利への欲も増してきた。
 豊富な試合経験とチャレンジャー精神を融合させ、先週の牧之原大会では単複ともに決勝へ。シングルスは決勝で敗れるも、同期の久保杏夏と組んだダブルスで頂点に立った。
 ただ勝利を喜ぶ間もなく、その日の夜には浜松へと移動。翌日には予選の初戦を戦い、3つの白星を連ねて、ここ浜松でも本戦の切符を勝ち取った。
 牧之原のシングルスでは、4試合連続でフルセットだったこともあり、「ここらへんがプルプルです」と太腿を指し苦笑をこぼす。それでも勝ち続けているのは、省エネテニスの恩恵だろう。
 もっとも、実力者たちとしのぎを削った牧之原では、「最後までボールを追うことの大切さ」を感じたとも言った。
 「強い人は全然ミスがなく、私が得意のライジングでどれだけ打っても、パーンと返されてしまう。メンタル勝負が大きいと思いました、上のレベルだと」
 そのメンタル勝負に持ち込むためには、遮二無二走るべき時がある。
 開眼した伊藤のテニスの新境地が、浜松で見られるかもしれない。
 

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。