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HAMAMATSU WOMEN'S OPEN / COLUMN / ■2021年大会注目選手⑤:山崎郁美■

■2021年大会注目選手⑤:山崎郁美■

内田 暁

 
 
 3時間45分の熱戦を終えクラブハウスに戻ってくると、ボールの詰まった籠を手にし、その足で練習コートへと向かった。
 勝利にも気になるところがあったのだろう、「30分」と言っていたサーブ練習は小一時間に及ぶ。
 彼女をよく知る人々が、「練習の虫」と声をそろえる所以がそこにあった。
 もっとも当の本人は、そんな周囲の評価に首をかしげる。
 「そんなに練習しているかな……亜細亜大学の人はみんな練習するので。ついていくので必死です」
 現在、亜細亜大学2年生。
 山崎郁美は、同大学で練習するようになった高校3年生時に急成長した、やや遅咲きの選手だという。
 そのような評価には、本人も「そうですね」とうなずいた。
 「中学3年で初めて関東大会に出て、高1で初めて全国大会に出ました。高2の時、全国私学選手権で優勝しましたが、この大会は参戦選手も少ないので……」
 本人は謙遜する、高校2年生時に手にした全国大会のタイトル。その勝利によって山崎は、日比野菜緒らが拠点とする“テニスラボ”での練習機会を得て、コーチ陣にフォーム変更の助言を受けた。
 具体的な変更点は、「それまで完全な手打ちだったのを、大きな筋肉から動かすようにした」こと。さらにはその頃を機に、「自分の試合の動画も見るようになった」という。
「それまでは自分の試合を見たくなかったんです。フォームが嫌いだったので。でも見るようになってから、自分を客観視できるようになりました」
 前向きに改善に取り組み、特に苦手意識を抱えていたフォアハンドに大きくメスを入れる。その試みは徐々に実を結び、高校3年生時にはインターハイでベスト8へ。大学一年生時には、全日本学生テニス選手権大会(インカレ)でベスト4に食い込んだ。
 かくして変革を経た現在の山崎のテニスは、本人の「お手本はジュスティーヌ・エナン」の言葉に集約されるだろう。
 160センチの小柄な身体を目いっぱい使い、右腕を振り抜き放つフォアハンド。集中力を切らすことなく、鋭い出足でどこまでもボールを追い続ける脚力とスタミナ。バックハンドこそ両手打ちだが、躍動感とエネルギーほとばしるその姿は、確かにかつての世界1位を彷彿させる。
 卒業後のプロ転向を視野に入れ、今はまだ多くの課題に取り組む日々。
 その成果を確かめるうえでも、この大会は自身の現在地を知る、格好の羅針盤になる。
 

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。