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HAMAMATSU WOMEN'S OPEN / COLUMN / ■2021年大会注目選手⑥:西郷幸奈・里奈■

■2021年大会注目選手⑥:西郷幸奈・里奈■

内田 暁

 
 
 幼い日々のテニスの記憶は、二人にとって、家族の楽しい思い出とそのまま結びついている。
 「自分がテニスをやっているよりも、姉の試合について行ってる記憶の方が大きくて。戻れるとしたらあの時が良いと思うほどに、すっごい楽しかったことを今でも覚えています」
 妹の里奈がそう笑えば、姉の幸奈が「家族みんなで、旅行みたいな感じで遠いところに行くのが嬉しかった。家族イベントがテニスの大会という感じだったので」と言葉を足す。
 父の本職がテニスコーチ、さらに父方の祖母もコーチ経験のある西郷家にとって、テニスは家族の絆だった。
 「家族イベント」であったテニスが職業になったのは、姉妹ともに18歳の時。先にプロの世界へと足を踏み入れたのは、現在25歳の姉である。小学生の頃から海外遠征にも出ていた幸奈にとって、プロは「絶対になるなと、どこかで思っていた」という、子どもの頃から歩んだ道の続きだった。
 一方で妹の里奈は、そこまで割り切っていた訳ではない。
 大学進学も考えたし、テニス以外に興味のあることもある。そこで妹は、姉に相談を持ち掛けた。
 その時に二人が向かった先は、カフェだったという。
 姉の提案で、二人はノートに、自分がやりたいこと書き出していった。
 姉のノートには、栄養学や健康に関する言葉が並ぶ。
 妹は、ファッションやデザインにまつわる職業や文字をノートに書き連ねた。
 そうして二人が至った結論は、「テニスをやってからでも、これらのことはできるよね」。かくして妹も姉に4年遅れて、プロの世界に飛び込んだ。
 その時以来、二人は文字通り二人三脚で国内外のツアーを転戦し、練習と寝食を共にしている。
 喧嘩をしたことは、ほとんどない。ただ今年の春ごろは、ケガをして思うような結果が出ぬ姉が、好調の妹に対し「ネガティブな感情を抱いたり、悪く言ったら、妬みが出てしまった」と認める。
 対する妹は妹で、そんな姉の心中を察していた。
 「テニスの話はしないで食べ物の話をしたり、試合の日の朝も静かに家を出るようにしていました」
 二人の調子の波がすれ違うことは、少なくない。むしろ、揃って好調の方が稀だろう。そんな日々を重ねながら、互いが互いをさりげなく気遣い、「リセット」を繰り返してきた。
 今回の浜松ウィメンズオープンでは、姉は2回戦で敗れるも、妹の里奈はベスト4へと進んでいる。妹が準々決勝を戦うコートサイドには、声援を送る姉の姿があった。
 二人にとってテニスは今や、職業であり生きるための術である。
 勝利や敗戦が帯びる色合いも、子どもの頃と同じという訳にはいかない。
 それでも「家族イベントがテニスの大会」であることは、今も昔も変わらぬ事実だ。

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。