ダブルス優勝 大前綾希子&阿部宏美
「数年越しの想い重ね、初結成でタイトル手にした“悲願”のペア」
優勝に懸ける想いは、「実はかなり強かったです」と、大前綾希子は明言した。大前と言えばダブルス巧手、タイトルもかなり取っているとの印象が強い。現にITF公認大会では、今大会を迎えた時点で23のタイトルを手にしてきた。
ところが最後に優勝した時となると、2018年まで遡る。やや意外ではあったが、実に6年間、国際大会のタイトルから遠ざかっていた。
かなりの時間を遡るという意味では、阿部宏美に「ダブルスを組もう」と声を掛けた日も、今となっては遠い昔だ。
阿部とは、ダブルスで多く対戦するなかで、「私とプレーが噛み合うだろうな」と大前は感じてきたという。
「前衛も後衛もできるし、プレーに隙がない。私が阿部ちゃんのペアと対戦した時は、いつも彼女を避けてパートナーを狙っていた」と言うまでに、大前は阿部を高く勝っていた。
ところが、いざ「組みたい」と声を掛けると、「ケガをしちゃったので、復帰は半年以上先になります」と、いきなりの長期先送り。復帰後も度々声を掛けてみるが、「もうパートナーが決まってます」「その大会には出ません」と、返ってくるのは丁重なお断りの言葉の数々。
それでも大前は、めげなかった。
「浜松ウイメンズオープンは、阿部ちゃんのスポンサーが運営をしている大会。絶対に出るだろう」と狙いを定め、早くから声を掛けて、今大会にてついに実現! 大前にしてみれば、戦略的に攻めて射止めた「悲願」のペア結成だった。
「ここまでラブコールを受けながら再三断わるなんて、いったい、大前さんの何が悪かったの——?」と、当然ながら冗談で尋ねると、「タイミングが悪すぎです!」と阿部は笑って即答した。
声を掛けてもらうたび、「申し訳ない」と思いながらも断り続けて、幾星霜。それでも阿部の中でも、「大前さんは自分と似たタイプ。きっと組んだら、やりやすいだろうな」の予感はあったという。
果たして、数年越しのラブコールを経て実現したダブルスペアは、相思相愛のプレーを振りまき、大前曰く「えげつなくタフ」なドローを駆けあがった。
大前にとっての小さな誤算は、「阿部ちゃんは、思ったよりも強く打つ」こと。だからこそ、「ロブは、私の担当」と役割を明確化した。
大前のそのような判断力と決断力こそが、阿部曰く、「一番、助けてもらえた」点だという。阿部が次のプレーに迷った時、「じゃあ、こうしよう」と直ぐにアイディアを出してくれる。逆に、自分から「こうやってみたい」と提案すれば、「うん、それで行こう!」と背を押してくれた。
もっとも、作戦決断のプロセスは早いにも関わらず、試合中には主審から、「ポイント間の時間、もう少し短くね」とやんわり注意を受けたという。それは単に、「今のポイント、やばかったですね」「今の、超良かったよ!」などの“感想戦”が長いから。そんな微笑ましいエピソードからも、試合中にも言葉を交わし、意志を重ね、絆を強める過程が伺えるようだ。
「えげつなくタフ」なドローを勝ち抜く上で、大前が「最も大きな勝利」として挙げたのが、初戦。相手の松田鈴子と吉川ひかるは、両者ともにサウスポー。鏡像のような相手に、自分たちの武器を生かしきれなかったが、その苦戦こそが連携と戦略性を深めたという。
初のペア結成にして優勝した一週間を、大前は「マジで楽しかった!」と振り返る。同時に、「ハードコートでも組みたい」と、早くも“次”に胸高鳴らせている様子。砂入り人工芝のコートは、足元が滑ることもあり、前衛が思い切って動きにくい。「がまん!」をテーマに掲げていたというだけに、大前にしてみれば、阿部の機動力を別のコートで、存分に生かしてみたいとの思いがあるようだ。
そのコートはどこの国の、どの町の、どんなサーフェスになるだろうか——? いずれにしても、初結成までに要した日々に比べれば、“次”は早々に訪れそうだ。