コラム

HAMAMATSU WOMEN'S OPEN / COLUMN

■2021年大会決勝戦プレビュー■

内田 暁

「決勝戦の日は、私の誕生日だ」
 大会のスケジュールを見た時から、西郷里奈の焦点は、その一点に定められていた。
 そして現に今大会、彼女は初戦からセットを落とすことなく、決勝戦まで駆け上がる。
 スラリと伸びた腕をしならせ、ボールの跳ね際を打ち抜く強打。その武器を携えて、狙った頂上決戦までの道を切り開いてきた。
 西郷の攻撃的スタイルは、本人曰く「子どもの頃からこんな感じ」。誰かから、そうすべきと助言を受けた訳ではない。ただ、自然と形成されたそのテニスの“鋳型”を作ったのは、もしかしたら、4歳年長の姉の幸奈かもしれない。
 西郷姉妹は子どもの頃から、父の手ほどきを受け、二人で練習を重ねてきた。子どもの頃は4歳の年齢差は当然大きく、ポイント練習をしても、妹は姉に歯が立たない。ただ勝てないまでも、なんとか一矢報いたいとの思いが募っていく。
 「すごく無理あるポジションからでも、狭いところを抜くのが好きでした」
 スーパーショットの快感こそが、彼女のテニスの原点にある。
 もっとも、快感を追い求めるだけでは、通用しないのがプロの世界だ。ここ最近意識してきたのは、攻めと守備の局面を見極めること。
 今大会好調の背景には、それら「今まで取り組んできたこと」があった。
 その西郷が決勝で相対するのは、同期の輿石亜佑美である。
 輿石は今夏、ITF(ツアーの下部グレード大会)15,000ドル大会で3勝をあげ、先週の牧之原大会でも優勝。今まさに、急成長の季節を疾走中の選手だ。
 準決勝の対井上雅戦も、輿石の進化が発揮された試合だといえる。
 第1セットは、輿石が6-1と圧倒。ただ第2セットに入ると、終盤まで競った展開が続く。その理由を輿石は、次のように分析した。
「第1セットは、雅さんが私のフォアサイドに多く打ってきて、それに上手く対応できた。セカンドセットは雅さんが打つコースを散らしてきたのが、競った理由だと思います」
 以前の輿石は、フォアハンドにやや苦手意識を抱いていた。そのことが、井上の頭にあったのかもしれない。だが今の輿石のフォアは、スピンとスライスの双方を操り、緩急をつける武器となっている。
 第2セットで相手の戦術変化に苦しんだ場面もあったが、この数か月で多くの勝利を手にした輿石は、焦らない。
「雅さんはカウンターが得意なので、コースを狙うと、より低くて鋭いボールが返ってくる。なので、球の質で勝負するようにしました」
 コースは多少甘くても、スピンを掛けたフォアを深く打ち込むことで、“ビーム”の異名をとる井上のフラットショットを封じる。 サーブやフォアを磨いたことで、以前から定評のあった戦略性も、さらに幅が広がった。
 決勝を戦う西郷と輿石は、遠征で部屋をシェアし、休日は共に遊びに行くほどの仲。それだけに、互いのプレースタイルも熟知する。
 来たる頂上決戦のカギを、輿石は「今日と同じようにフォアで緩急をつけ、前にも出ていきたい」と目す。
 対する西郷は、輿石を「頭の良い選手」と評した上で、あくまで「今大会で出してきた、自分らしい攻めのテニスを貫く」所存だ。
 勝つのはバースデーガールか、あるいは、今季絶好調のライジングスターか?
 楽しみな21歳の同期決戦は、17日午前11時に火ぶたが切られる。
 
 
 

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。