「今回は、年下との試合が多かったのでプレッシャーはありましたが、そのプレッシャーを“良い負荷”として感じられたから、勝てたのかなって思います」

 まるで自分と対話するように、穏やかに、理知的に、津田梨央が言葉を紡ぐ。

彼女が初めて、浜松ウインメンズオープン本戦に出場したのは、14歳だった2021年。“ワイルドカード選手権”を勝ち抜き、自力で勝ち取った権利だった。

 それから3年経った今年、彼女は再びワイルドカード選手権を制し、本戦の切符をつかみとる。今回の同大会は、20歳以下のみが参加可能。普段は、年齢もランキングも上の選手に立ち向かうことの多い彼女にとって、追われる立場はレアな経験。当然ながら「負けられない」との重圧もあったが、それが「自分を鼓舞し、勝つんだという強い気持ち」につながったという。

 ここ数か月間の津田は、年齢制限のない一般の国際大会に出場してきた。年長者のプロ相手に、負けはしても、「自分がやりたい、かっこいいプレーが出来た」と感じることも多かったという。ただ同時に、「相手が強いのだから、負けてもしかたない」と、どこかで言い訳している自分にも気付いていた。

 だからこそ今回のワイルドカード選手権では、とことん、勝利にこだわった。「ある意味、自分を追い込んだ」なかで得た勝負強さは、彼女にとって、新しい自分との出会いだったのだろう。

 14歳の日には勝利を無邪気に喜んでいた少女が、自身の内面を冷静に分析する“新成人”となった事実は、3年という年月が、10代のアスリートにとっていかに長く、濃密かを物語る。

 加えて、昨年秋に新型コロナに感染し、後遺症に苦しめられた時間も、大きな“意識の転換期”だった。

「全然、家からも出られないくらいの症状で。ほぼ、ベッドの上で生活していたような日が、3ヶ月くらいあったんです。ちょっと歩いただけで、次の日の疲労がすごくて、ベッドから起き上がれない。今年の3月頃から徐々に散歩の回数を増やし、新学期になった頃から学校で社会生活に触れ、ようやくテニスが再開できたような状態だったんです」

 身体を動かすことはおろか、日常生活すら困難だったその日々は、テニス中心の生活を送ってきた少女の人生観や価値観をも、「大きく変える」契機となった。

「毎日、いろんなことを考えたし、自分で言うのもなんですが、礼儀正しくなったと思います」

そう言い彼女は、恥ずかしそうに目じりを下げる。

「以前より練習にも意欲的になったし、時間を効率良く使えるようになった。私生活や趣味と、テニスのバランスが、今はすごく良いと思います」

 その「新たに見つけた趣味」を問うと、彼女は「読書です!」と弾けるように即答した。最近は、ある小説を読んだことがきっかけで、「多様性とは何か?」と深く考察したという。「少数派」などの定義に想いを巡らせる中で、「ワイルドカードも、若手に出すものだとの考えが一般的だが、それは、他を排除することにならないのか?」との考えも頭をよぎったという。

 そんな今の彼女だからこそ、手にしたワイルドカードの意義も重みも、真摯に受け止められているだろう。

「本戦で対戦する人たちと私とでは、経験の量も違うけれど、違うからこそ、燃える。『経験の差で優劣が決まるのか』ということも気になるので、自分で勝って……、勝ってから、考えたいなと思います」

 そう言い広げる笑みは、3年前と変わらず無垢で、好奇心の光を湛える。探求する謎を解く鍵を、自分の手で、つかみ取りにいく。

© hwopen.jp / photographer Shinji Nagai