「相手の子とは年齢が離れすぎててプレーも見たことないし、ジュニアはオムニコート(砂入り人工芝)に慣れてるだろうけれど、私はオムニ苦手なので」

 私もそろそろベテランですから……と笑ってほころばせる童顔は、ベテランという言葉にほど遠い。
 今月末に誕生日を控える、22歳。ただ、この大会に初参戦しベスト4に躍進したのが16歳だったことを思えば、怖い物知らずだったあの頃は、確かに遠い日に感じるかもしれない。

 今大会第1シードの荒川晴菜が、初戦で相対することになったのは、今年のインターハイ優勝者の丸山愛衣だった。実力や実績で言えば、世界ランカーの荒川が大きく上回るのは、間違いない。ただ荒川は、同じく第1シードで迎えた先週の牧之原大会で、17歳の伊藤あおいに敗れている。

 「以前は怖いもの知らずだったのに、今はなぞに、肩書だけ第1シードで一番上に名前が載っていて、勝つのが当たり前の空気を感じてしまっている」

 そのプレッシャーが、本来の奔放で創造性に満ちたテニスを、荒川から奪っていた。加えて牧之原で敗れた伊藤は、緩急と配球の妙で勝負する、いわば荒川と似たタイプ。

「対戦しながら、ちょっと昔の自分を思い出すところがあって。自分もあのようなプレーで、相手や周囲をあっと驚かせるのが好きだったなって」

 17歳でプロになって以来、トップレベルで勝つべく変革を目指し、本人曰く「試行錯誤してきた」5年間。その中で感じた戸惑いが、最も色濃く残るのが、この浜松だとも言う。

 「初めて出た年(2016年)の伸び伸びやっていたテニスと、翌年のプロになって迷っている中での自分の違いが激しすぎて」

 プロになり、人工芝からハードコートへと主戦場が変わるなかで、自分のテニスを見失いかけた時期もあった。自ら攻める必要性を痛感し、最近ではフィジカル強化に一層力を入れ、早いタイミングで攻めるテニスも目指している。
 ただ逸る心は時に、自分の良さを……何より、なぜテニスが好きかという原点を、置き去りにもしてしまう。そんな時に対戦した“昔の自分”を彷彿させる若手の姿は、「初心を思いださせてくれた」のだと言った。

 幾分のノスタルジーを抱きながら向かった今大会の初戦で、荒川は丸山に6-2,6-2で勝利した。相手に、格の違いを見せつけるように攻めたかと思われたが、本人は「緊張もあって、攻め急いでました」と恥ずかしそうに打ち明ける。かつてあれほど得意とした砂入り人工芝のバウンドに合わず、ラケットが空を切る場面もいくつかあった。
 ただ、海外にはまず存在しない砂入り人工芝に戸惑う姿と、その中でも勝ち切るテニスこそが、初出場から5年の年月がもたらす荒川の成長を、逆説的に物語ってもいた。