コラム“内田 暁”

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2018マッチレポート|準決勝|清水vs波形

内田 暁

2018年大会マッチレポート③:準決勝 清水綾乃1-6,6-4,6-4 波形純理

 突如として、“これでもか!”と自らの力を示すように、ボールを全力で「しばき」始めた。

 第1セットを1-6で落とし、第2セットは奪い返すも第3セットは1-3とリードされ、敗戦のラインがすぐ背後まで迫った局面。「それまではフォアで、ボールを押し出すように打ってミスをしていた。振ってのミスだったらしょうがないと思ってたので、フォアに回り込んで“ボールをしばき倒そう”と……」試合後に笑顔をこぼし、清水は件の場面を回想する。そのような心境の背後にあったのは、「負けたな」というある種の覚悟と、それに伴う良い意味での開き直り。

 「守って負けるのは嫌だ。自分のテニスで負けたらしかたない」テニスを、試合を楽しもう……そう思った時から、強打で相手を振り回す清水のテニスが姿を現す。すると、波形が腰に痛みを覚え始めたこともあり、徐々に流れは反転の兆しを見せだした。波形サーブの第8ゲームでは、振り抜いたフォアの強打がネットの白帯を叩き、相手コートに落ちる幸運も。このゲームをフォアのリターンで叩きブレークすると、傍目もふらず一気に追い抜いた。

 最後は相手のダブルフォルトで、熱戦に終止符が打たれる。「途中、何度も負けたと思った」ほどの窮状を切り抜け、終盤に開き直れたのも、そして追いついても勝利を意識せず無心で最後まで走りきれたのも、「相手が強い波形さんだったから」だと清水は言った。

 今大会は開幕直前に腰を痛め、練習を再開したのは1回戦の前日だった。初戦はまともにサーブも打てず、「正直、ここまで来られるとは思っていなかった」という状態で戦ってきた今大会。それでもコートに立てば当然勝ちたく、日が経つに伴い腰も回復に向かった。
 
 今は身体の状態はほぼ万全。その中で迎える決勝の相手の鮎川真奈は、かつての清水少女が、憧憬の視線を向けた存在である。清水は小学生の頃、鮎川の祖父母が経営する千葉県のロイヤルSCテニスクラブに、毎週末通っていた。そのクラブでエリート選手として練習するのが、鮎川だった。また、ロイヤルSCクラブではプロの大会が開催され、参戦者には鮎川も居る。
「凄い! テニスをしてお金がもらえるなんて!」
そう驚いたことを、清水は今も覚えている。テニスが職業になることを知った原体験も、いってみれば鮎川だった。

 両者の初対戦は、2年前のITF$10,000大会。その時の清水は「あの真奈ちゃんだ!」と感激し、最終セットで5-1とリードした時は「真奈ちゃんに勝てちゃうかも!!??」と勝利を意識し逆転負けを喫した。
 それから2年――今や清水はランキングで相手を大きく上回り、今大会でも第1シードの座を張る。両者の立場は入れ替わったが、それでも清水の中では「今も真奈ちゃんは、小さい頃に見ていた真奈ちゃん」だ。

 仰ぎ見ていた存在との頂上決戦に向け、清水は少女の頃に戻ったかのように、「すっごく楽しみ」と顔を輝かせた。

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。