コラム“内田 暁”

HAMAMATSU WOMEN'S OPEN / COLUMN / 内田 暁

■2021年大会注目選手⑦:輿石亜佑美■

内田 暁

 
「最近はサーブに自信があるので、自分のサービスゲームをキープし、1つでもブレークしたら勝つ。ファーストサーブを入れたら前に入ってボレーも決める。アグレッシブに攻めるのが、今の私のテニスです」
 そう語る快活な口調が、目指すプレースタイルが明確であることを物語っていた。
 プロ転向を控えた高校3年生時に、予選を突破し浜松大会本戦に初出場したのが3年前。その後、「自分のテニスが分からなくなりかけた」時期も経て、輿石亜佑美は「今の私のテニス」へと至る。それは3年前に披露したプレーとは、かなり趣を異にするスタイルだ。
 18歳の頃の輿石は、自身のテニスの特性を、「頭と足」に見出していた。テニスが持つゲーム性が好きで、「試合になると頭が回る」タイプ。得意なショットはバックハンド。そのバックハンドでポイントを決める形にいかに持ち込むか……それが当時の、“輿石のテニス”だった。
 だがプロになってほどなくし、そのテニスでは限界があることに気が付く。
 「以前はフォアハンドやボレーに自信がなかったので、スライスやドロップショットを逃げに使うこともあった。だから相手が自分のテニスに慣れた時、自分からそれ以上のことができなかった」
 プロで勝っていくためには、自分から相手を崩すことが求められる。その重要性に関しては、コーチの西岡靖雄からも言われ続けていた。コーチから与えられる「ものすごい情報量」にオーバーヒートを起こしそうになりながらも、自分の特性と世界のテニスの潮流を重ねながら、まず目指したのは、サーブを主軸にゲームをキープする力。そのために「ライン上ではなく、点をピンポイントに狙うサーブ練習を繰り返してきた」とも言った。
 ただ実は、サーブにここまでの自信を持つようになったのは、僅か数か月前のこと。その契機も、ある種の“怪我の功名”にあったという。
 「イップスのような感じで、サーブのトスが上げられなくなった時期があったんです」
 “トスイップス”はテニス選手に時折現れる症状で、トスを上げようとすると、指先や腕が思うように制御できなくなる現象だ。原因もそれぞれなら、対処法も千差万別。フォーム変更が奏功することもあれば、精神面が解決のカギになることもある。
 輿石の場合は、トスを上げる動作ではなく、それ以外の体の動かし方に意識を向けることで、この内なる難敵と対峙した。
 初動時の重心の移動や、身体の捻り。肩や肘の位置などに意識を向け、最も心地よくサーブを打てる動きを分析した。
 するとある時、分断していた個々の意識と動きが連結し、流れるような一連の動きでサーブが打てたことに気が付く。一度均衡を見つけたフォームは、二度三度とサーブを打っても、そして日が変わっても崩れることがなかった。
 「サーブは悪い方とは思ってなかったけれど、ここまで良くなるとは思っていなかった」
 嬉しい驚きは自信となり、8月はチュニジアのツアー下部大会(賞金総額15,000ドル)に4大会出て3度優勝。「サーブに助けられた試合もたくさんあった」の言葉に象徴されるように、ゲームプランに一本の軸が通った。
「昔の私が今を見たら、驚くと思います」
 懐かしそうに眼を細め、広げる笑みにも自信がにじむ。今大会も、新たに手にしたその武器で、頂点への道を切り開いていく。

著者

内田 暁
浜松ウイメンズオープンオフィシャルライター|編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)などがある。