勝利の後の会場内で、うさぎと戯れる彼女の姿があった。

 うさぎと光崎楓奈の取り合わせには、妙な相性の良さがる。黒目がちな丸い目を、クリクリと動かして周囲を伺い、小さな身体を大きく伸ばして、ぴょんぴょんと元気に飛び跳ねる。

そんなうさぎのイメージは、コート上の光崎の印象そのものだ。

 ただ当の本人は、「自分、けっこうネガティブなタイプで……」と、小さな声で打ち明ける。なかなか、自信を持つことができない。その不安を口にしては、自らの声に引きずられるという、ネガティブサイクルにも陥りやすい。

 勝利からも見放されるなかで、「テニスを楽しめていない」自分に気が付いたのは、昨年のこと。

 だから彼女は今年3月に、拠点を埼玉県の『むさしの村ローンテニスクラブ』に変えた。

「環境を変えないと、自分を変えないと。このままではダメだよねっていう思いは、ずっとあった」

 それがゆえの、決断だ。

 新たな土地で、新たな声を耳にすることは、自ずと心の有り様をも変えていった。

 特に光崎が、一つのターニングポイントとして挙げるのは、僅か3週間前の“能登和倉国際女子オープン”の直前のこと。

「コーチから、ネガティブなことを口にしないようにしようと、言われたんです。弱音を吐かない。ちょっとポジティブに、普段からちょっとネガティブなことを口に出さないように頑張ろうと」

 それは言葉にすれば、細やかな取り組みかもしれない。ただ周囲の目には微細な変化でも、当事者とっては一歩を踏み出す大きな推進力になる。

 能登では、予選を突破しベスト8に進出。先週の牧之原国際でも、予選を突破し本戦2回戦へ。そして今回の浜松では、初戦で第8シードの小堀桃子に7-5,7-6で競り勝つ。2回戦は6-1,6-3で快勝し、ベスト8に歩みを進めている。

 特に初戦の小堀戦は、光崎にとって、現在の取り組みの正しさを示す指標となったかもしれない。この日は朝から小雨が降り、雨を含んだコートは滑りやすく、球足が速かった。そこは、小堀の得意なフィールド。それでも光崎は「ミスが出ても、スライスで逃げずに、しっかり打っていこう」と自分に言い聞かせる。貫徹したその意志は、太陽が姿を現しコートが乾くにつれ、実を結ぶ。

「後半は自分から攻める良い展開になったので、そこは良かったです」

そう言い控え目に笑った。

 準々決勝で挑むのは、大会第1シードの加治遥。ランキングでは開きがあるも、前向きに、自分を信じてコートで跳ねれば、次なるステージにきっと届く。